昔から発酵文化が根付いている長浜をはじめとする湖北・湖西エリアでは、酒蔵やしょうゆ蔵などが今も点在しています。この特集では、そんな「発酵」にまつわる「発酵スポット」や「発酵人」を紹介します。
今回は、長浜・木之本の北国街道沿いにあり、地元民だけでなく観光客にも人気がある「冨田酒造」を取り上げます。
冨田酒造
480年以上の歴史を持つ「冨田酒造」は15代目となる今も、奥伊吹山系の伏流水と地元の篤農家による減農薬栽培米を主に使い、昔ながらの厳寒仕込みで醸造しています。
店内
「地酒を造るからには地のものを生かした酒造りを」
そんな思いから「地元の契約農家の米」「蔵内の井戸から汲み出す地下水」など原材料にこだわっています。この土地の気候や空気でできているともいえる「冨田酒造」の酒。15代目の冨田泰伸さんは「自然環境を守ることは、おいしい酒を造ることに直結している」と話します。
冨田酒造の酒「七本鎗」
定番商品の一部
賤ヶ岳の合戦で活躍した7人に由来する「七本鎗(やり)」。この土地の英雄ということで名付けられたと思われますが、現在では命名の由来の詳細は不明だそうです。
現在は、昔ながらの酒造りの手法を復活させたり、無農薬米や滋賀の在来米を原料にしたりするなどして、「原点回帰」を意識して日本の伝統文化を守り後世に伝えていく意味での酒造りにも意欲的に取り組んでいます。
ここからは、その代表的な酒2種を紹介します。
無農薬栽培米を使った酒造りから誕生「七本鎗 無農薬純米 無有」「七本鎗 無農薬純米 無有」価格は3,850円(1.8リットル)1,925円(720ミリリットル)
2010(平成22)年に地元の篤農家・家倉敬和さんと始めた無農薬栽培米を使った酒造りから誕生した「七本鎗 無農薬純米 無有(むう)」。毎年秋頃に発売します。
商品名は「農薬を『無』くすことにより、農家と酒蔵双方の思いの『有』る酒が生まれた」ことから「無有」と名付けました。
ラベルには稲穂とバッタのイラストをあしらい、無農薬栽培の米作りで虫が戻ってきたイメージを表現しています。
他に、滋賀の在来種「滋賀旭」を原料にした「七本鎗 無農薬 無有 滋賀旭」もあります。
木桶(おけ)で造った酒「七本鎗 木ノ環 木桶仕込」「七本鎗 木ノ環 木桶仕込」価格は3,300円(1.8リットル)1,760円(720ミリリットル)
日本酒造りには古くから木桶(おけ)が使われてきましたが、現代では掃除や手入れがしやすいホーローやステンレスのタンクに移行しています。
そんな時代に逆行するように、2021年に木桶仕込みの酒造りを復活させ誕生したのが「七本鎗 木ノ環(きのわ) 木桶仕込」です。
木桶
木桶はホーローなどと違って蔵の菌が付きやすいため、例え他の蔵で同じ材料で造ったとしても、出来上がるものに違いが出ることや、ほのかに木の香りがする日本酒ができることが特徴です。
商品名は、酒蔵は日本酒を造るだけではなく、日本の伝統や文化が凝縮しているものなので、伝統を受け継ぐ木桶を使った酒造りをすることで、減少している木桶作りの職人が増えるかもしれないということ、木は廃材になっても自然に還る素材であるなどから、「木を軸に伝統や人、環境の循環を起こしていければ」との思いを込めて付けたそうです。
冨田泰伸さんに聞く・「発酵の魅力」とは
15代目の冨田泰伸さん
ー発酵の魅力は何だと思いますか?」ー
冨田「『ある食べもの』が目に見えない菌を介することでアップデートするところが不思議で面白いと思います」
「例えばみそ作りでも、『この時期に仕込む』『空気を入れない』など科学的な知識がない時代に昔の人たちが何度もトライ・アンド・エラーをして、今のやり方に行き着いている。現代では科学的にそのやり方が理にかなっていると証明されていることがすごいと思う。発酵食品には日本人の知恵が、すごさが垣間見えます」
ー特に好きな発酵食品はありますか?ー
冨田「基本的に発酵食品は全部好きですね。ハード系のチーズは日本酒にも合います」
「冬にふなずしが出来上がる。そのままで食べるのも好きだけど、夏になってから、ふなずしの周りについている飯(いい)を取り除いて、再び酒かすに2カ月くらい漬けて作る『ふな寿司(ずし)の甘露漬け』が好きで、昨年も作りました」
店内
冨田さんは、発酵文化の面白さや日本人が受け継いできた伝統の素晴らしさを交えインタビューに答えていただきました。
今年11月に新酒が完成した「冨田酒造」。年末年始の酒を選びに、ぜひ足を運んでみては。
「冨田酒造」
住所 長浜市木之本町木之本1107
営業時間 9時~18時
ホームページ https://www.7yari.co.jp/
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